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植物工場は過去の不作時に「食の安定供給」で話題となり、近年は「食の安全」から注目されている。生産者たちは東日本大震災で新たな需要が生まれたとみるが、消費者への浸透はまだまだだ。
【植物工場生まれも】スプラウトを活用した料理レシピ
JR岡山駅から北西へ約2キロ。岡山市内を見渡す小さな山の頂に、両備ホールディングス(HD)の植物工場がある。100坪の敷地に建つ白い円筒形の建物に入ると、ガラス窓で密閉された室内に、蛍光灯の白い光を浴びたレタスが整然と並んでいた。
同社は岡山県を中心としたバスやフェリーなどの交通・物流事業が中核。農業分野へは2年半前に参入し、老朽化で07年に閉じた遊園地の展望台を改装して植物工場にした。
1日約1000株収穫される野菜は、昨秋から全日空国際線のファーストクラス、ビジネスクラスの機内食で提供している。朝に摘んだ葉物野菜をサラダ用に数種類パックし、100セットを毎日、成田空港に出荷する。全日空広報室は「野菜の新鮮さ、安全性に加え、希少な野菜を活用したメニューの開発が可能」と話す。
植物工場は80年代半ばと90年代後半にブームがあったが、定着しなかった。今は00年代末からの「第3次ブーム」。古在(こざい)豊樹・千葉大名誉教授(農業環境工学)は「07年の中国製ギョーザ中毒事件をきっかけに、無農薬の安全な野菜を計画的に仕入れることが、食品産業の緊急課題になった」と指摘する。
植物工場産野菜は一年中、一定価格で納入が見込め、多くが無農薬で洗わずに調理できる。販路の多くは外食産業や弁当、総菜業者が占める。
今回のブームは、過去2回と異なり政府が支援している。09年度予算に農商工連携推進の一環として約150億円を計上。50カ所だった植物工場を3年間で3倍に増やし、生産コストを3割下げる計画も打ち出した。経済産業省によると、今年初め時点で工場数は3倍弱に増え、コスト削減目標もおおむね達成できる見通し。さらに政府は震災後、今年度の第3次補正予算で、研究開発のため15億円を投じた。
両備HDは年内に大阪、京都など5カ所で岡山を上回る規模の植物工場を完成させる予定。水田満・企画開発部長は「地産地消のビジネスと始めたが、原発事故後、関東で西日本産の野菜が売れている」と関東圏への出荷を視野に入れる。
しかし、植物工場産野菜の消費者の認知度は今一つ。三菱UFJリサーチ&コンサルティングのインターネット調査(09年4月、対象約4万人)では、6割以上が植物工場産野菜を「知らない」と答え、購入経験があるのは6%にとどまった。
人工的な印象を嫌う消費者が一定割合いる傾向も浮かぶ。植物工場を営む企業の7割が赤字との報告もある。
植物工場の動向に詳しい野村アグリプランニング&アドバイザリーの佐藤光泰・主席研究員は分析する。「震災により東日本と西日本で戦略が異なるだろう。被災地に近い東日本は、安全性の強調が消費者を動かす。西日本はこれに加え、低価格化が欠かせない」
◇中東に高い需要
食のリスクに対応する植物工場は、世界的にも関心を集めている。日本はトップレベルの技術を持っており、新たな輸出産業としての期待もかかる。
三菱化学(東京都港区)は昨年2月、アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイの食品関連企業に人工光型の植物工場を納入した。コンテナタイプで、1日あたりの生産量(植物工場の場合、レタスの栽培を想定して算出)は50株程度だが、消費電力の小さいLED(発光ダイオード)を利用し、太陽光発電も併設する。
これを足がかりに、中東の複数の国で商談を進める。日本で稼働している植物工場の1日あたりの生産能力は最大で1万株程度だが、現地では2万~3万株以上の大規模工場を求められている。
中東諸国には生野菜を食べる習慣はあまりないが、駐在員や観光客向けに需要がある。雨が少なく砂漠が広がる気候条件から、生鮮野菜の多くを輸入に頼っており、多少コストがかかっても植物工場による現地生産のメリットはある。循環利用によって栽培に必要な水の量を露地物の1000分の1以下に抑えられる点も魅力的に映るようだ。
「現地では『食の安全』への取り組みを進めたいという声が強い。今後、市場は広がるだろう」。三菱化学植物工場事業推進室の大島信三・担当部長は手応えを感じている。古在名誉教授も「中国、韓国、台湾の追い上げはあるが、日本の人工光型植物工場の技術は世界トップ。ロシアのような寒冷地にもニーズはあり、有力な輸出産業になるだろう」と語る。
ただ、植物工場は電気など大きなエネルギーを消費するため、環境面から懸念する意見も。これに対し、村瀬治比古・大阪府立大教授は「通常の農業は異常気象や自然災害による不作のリスクがある。植物工場の収穫率や作物の安全性などを踏まえて評価されるべきだ」と指摘している。
(この記事は社会(毎日新聞)から引用させて頂きました)
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